2025/04/07

桜の美しさと日本人の美的感覚について〜謎のおっちゃんを添えて〜

桜が美しすぎて、きれいなし、舞いよるし、目を奪われるし脳に焼きつく。
思わずケツメイシの「さくら」を歌ってしまう。
(2014年にスピッツのライヴで草野マサムネがすこしだけ歌っていたのが忘れられない)
宇多田ヒカルの「桜流し」を想い、泣きそうになる。
フジファブリックの「桜の季節」「桜並木、二つの傘」も歌っちゃおう。切ない気持ちになっちゃおう。

日本にすでに四季はなく、長い冬と、死の危険と隣り合わせの“殺”(かつて“夏”と呼ばれていたもの)と、不快な梅雨しかない。そこに、たまに沈丁花なり金木犀なりが顔をのぞかせ、儚い春と秋を思い出させる。植物だけが、かろうじて四季というものを覚えている。

しかし桜である。これはちゃんと咲いてくれる。そしてそれはあまりにも美しく、そしてそれは決して底抜けに明るく幸福なものでなく、どこか憂鬱な、あるいは狂気の、死の香りがする美しさである。

桜の木の下には死体が眠っていて、その血を吸うから桜の花は薄い桜色なのだとか、美しい生き物(人間)が桜に攫われそうになるだとか、ヲタク的にも王道であり、文学としてはやはり坂口安吾の「桜の森の満開の下」である。落語の「頭山」に関しては、もはや狂気である。
(また、そもそもソメイヨシノはクローンであり、綾波レイのような存在である。)

桜の森の満開の下
頭山

しんどい冬を乗り越えて、桜というご褒美くらいないと生きていけない。
あと花見にはよく犬が駆り出される。愛犬と花見する飼い主の多いこと。眼福である。
いつもの道に、人間が増える。老若男女が集まってきている。みんな桜を愛でている。

私は幼いときに桜を見、「おい! そこの新米日本人!!」と誰かに呼ばれる。
「これが、桜や」わあ、綺麗なや。「これが、花筏や。綺麗なやろ?」桜がようけ水に流れよる!きれいな…… 「これが、桜の絨毯や」桜が地面にようけ積もりよる! 「これが、“舞い散る桜”や!!!」うわあああああ! 桜が! 花びらがぶわーーーーっって散って、舞いよる!!まるで吹雪のように。きれいな……!!
「ええか? これが、“桜吹雪”や!! 冬は枯れ木みたいなんが、誰も知らんうちに蕾をつける。そんでわーっと咲く。そんでぶわーーーーーっと潔く散っていく。これが日本の美や!!! これこそが綺麗なもんで、“美しさ”や、よう覚えとけ。日本の美は決して薔薇の花のようなもんやない。桜や」そういっておっちゃん(誰?)は去る。「あと葉桜も嫌われがちやけど、なかなかええもんがある」とか言いながら。
私は桜の前でただ立ち尽くす。これが絶対的な美であると思い知る。きれいな……

こういう感覚ない? 幼いときから桜の美しさを植え付けられるみたいな。
(この話をスーパーの帰り道、夫にしたら彼は笑っていた。)
(「きれいな」「きれいなや」とは私の生まれた地方の方言で「きれいだ、きれいである」という意味。「“綺麗な”桜」といったあとに続く単語を修飾する形容詞「綺麗な◯◯」とはちょっと違う)


桜には「舞い散る」というギミック、モーションがあり、それが梅や桃との違いであるように思う。桜の花びらは、花筏、桜の絨毯を生み出し、桜吹雪となる。

先日、近所で中国人のお兄ちゃんたちが花見をしていたが、彼らの目にはどんなふうに映るのだろうか。やはり桃こそ至高、という思いがあるのだろうか。でも若い世代の中国人って伝統的価値観みたいなのどう思っとんかな。
すこし前に、中国のひとたちと交流する機会があったが、40代女性は「冷たい飲み物を飲まない」など行動から中国文化を感じたけど、 10代後半〜20代前半くらいの若い男の子だとあまり伝統的中国文化を知らない(興味ない?)らしく、というかいまどきの若者なので普通にばりばりゲーマーだった。まあ中国めっちゃ広いので出身地域にもよるけど……。
また欧米の花見客も見かける。海外勢はだいたいスマートフォンで動画や写真を撮っている。(日本人もだけど)
私の地元では在日朝鮮人・在日韓国人のほかに中国人や韓国人はいたがほとんど爆買いや観光目的で、花見の季節に外国人を見かけることはなかったので、興味を持ってしまう。
エキゾチックだ、とか日本っぽいって思うんかな。

スウェーデン人のオーサ・イェークストロムさんの漫画を思い出す。
(オーサさんは桜味の食べ物など桜の商品も大好きで、味はともかく、季節限定の桜味のお菓子やアイス、お酒など、「花から作られているというのがエキゾチックでとても惹かれます」と書いていた)

雪柳が咲いたら、もうすぐ桜の季節や。雪柳がその細かい花びらを雪のように一気に散らせた頃、桜が咲く。

桜が終わると躑躅が咲き、紫陽花がアップを始める。(というか紫陽花はすでに葉を生やしてきている)そうして絶えることなく植物が育っていく。