2025/04/08

藤本タツキの漫画全然おもしろくないけどファンに感謝

結論から先に言います。私には藤本タツキの漫画が全く合わない。

「チェンソーマン」1部連載当時、インターネットは毎週チェンソーマンの話題で盛り上がっていた。私の好きな漫画家さんも、チェンソーマンおもしろい、最高としょっちゅうツイートしていた。知人や知人の知人もみんな好き好き言うし、藤本タツキは天才だという書き込みも頻繁に見るから、そんなにおもしろいのか、気になるなあと思っていた。しかし単行本に手が出せずにいた。
(以前、ファイアパンチが話題になっていたときに数話読んだことがあるが、ふーんという感じだったので……)

第1部が終わり、Twitter で生姜焼きを作るファンが続出していた。
しばらくして、なんとジャンプ+で チェンソーマン 第1部 が初回全話無料で読めるようになっていた。なんという大盤振る舞い! 私はわくわくして一気に読んだ。
しかしこれが、全然おもしろくない。
なんでや。感性死んだか? 加齢で感性が死ぬと巷で耳にする。それか?
(でもチェンソーマンを絶賛してた好きな漫画家さんが「すごい面白い!!」と言ってた「ハイパーインフレーション」はめちゃくちゃに面白かった。最高でした)

レゼは、かわいいと思う。レゼ編は映画っぽい。でもおもしろくない。その映画っぽさに白ける。そもそも藤本タツキの「映画好き」これがあんまりよくないと思う。手塚治虫は映画をたくさん観てたし漫画家(志望)にも映画をたくさん観ろ、と言っていたけど、なんかそれとは違う。薄い。
マキマさんは魅力的なキャラだとは思う。でもおもしろくない。大型犬にまみれた犬好き女性とか私好きそうなのに。
クァンシとその取り巻きのルビなし中国語とか「死体が喋っている」のとことか、ウケると思う。でもおもしろくない。クァンシというレズビアンやそのセクシャルなシーンを週刊少年ジャンプで出すことには一定の評価をしたい気持ちもあるが、作者の自意識がチラつく。俺ジャンプでこんなん描いちゃいますみたいな。コミックスの表紙もそうである。
(久保帯人先生が「BLEACH」で魅せた砕蜂の夜一様への想いの衝撃を上回るものがない。週刊少年ジャンプでいきなりあんなものお出しされて私は死んでしまいました。レズビアンだという描写はありませんが……。それは重要でない。平成の、週刊少年ジャンプで女性キャラクタから女性キャラクタへの激重感情が描写される。関係性も、とても丁寧に描写される。これがどれだけすごいことかわかりますか? ……まあクァンシと魔人たちはストーリー上クソデカ感情見せる場面とかないので比較対象にするのはおかしいが)
コベニ関係のギャグセンスなども、合わない。面白くない。

そして藤本タツキはジャンプ+に読切漫画を発表した。「ルックバック」「さよなら絵梨」。
どちらも私に全く響かない。

ルックバックは、むしろ不快だった。どうしても京アニのあの事件を想起させる内容。創作するにはまだ早くないか、という気持ちがもたげる。しかしその点をのぞいても、つまらなかった。全く好きになれない。不登校の女の子、女の子ふたりという関係性、漫画と絵を描くということ。いかにも私の好きそうな題材であるのに。
いつもの露悪的なふざけた感じの、藤本タツキらしさのない、シリアスなストーリーであるが、そこもなんか滑っている感じがした。

(滑っているといえば 藤本タツキの Twitter アカウントである。タツキおもしれえ天才、頭おかしい、みたいなリアクションを見るたびに正気か? と思う。どちらかというとつまらないひとが、おもしれー男、やべー男と思われたくて必死に滑っているようにしか見えない。寒い。)

さよなら絵梨も、全然つまらない。
横長の映画的なコマ割りが革新的だ、すごいと持て囃されていたが、私は川原由美子「ななめの音楽」という傑作を知っているので、何も驚かないどころか、明らかに劣っていると思った。(漫画家としてのキャリアもそうだし、センスも力量も違うのだと思う。まあ少年漫画と少女漫画でジャンルも違うが)

川原由美子「ななめの音楽」これも本編ずっと横長の映画のスクリーンのようなコマ割りで、かつ慢符や擬音などがいっさい省かれており、陰影はスクリーントーンではなくグレースケールで塗られている。独特な作風だが、読んでいるうちに全く違和感がなくなり、映画を観ているような感覚になる。コマ割りが気にならなくなることで、そのコマ割りが生きてくる。没入感がすごい。演出力がすさまじい。
ストーリーも、少女漫画家がこれを描いたのだと思うと(特に川原由美子は「前略・ミルクハウス」や「観用少女」といった作品が有名で、ミルクハウスでは男女の恋愛、プランツ・ドールではメインではないが結婚して妊娠出産する女性たちが描かれていたにも関わらず)ものすごい作品である。こんなに美しい、少女たちの出会いと喪失と狂気と悲しみと成長の物語があるだろうか。クライマックスでの光子先輩の言動、セリフには目を見張るものがあるし、ラストシーンが最高すぎて、うっとりする。文句なしの傑作。
(ネタバレになるが、ひとりの少女が精神のバランスを崩していくさまをこんなに丁寧に描いた作品を私は他に知らない)

Amazon リンク(アフィリエイトではない)

個人的にはこのめんどくさそうな博識な男性のレビューが好き。ただしネタバレ注意。

「ななめの音楽」も知らないで「さよなら絵梨」のコマ割り演出を絶賛する世間の“漫画読み”(この言葉すっげえダサいし恥ずかしいんですけど自称してるひとは平気なんやろか)はまだまだだな、と思ったし失望した。
(5ch 少女漫画板 川原由美子スレッドでファンが苦言をぼやいていたので安心した)

チェンソーマン 2部がけっこう前に始まり、なんとなく惰性で読んでいるが、ずっとつまらなさを更新している上に明らかに絵が荒れてきていて、線も太いし、画面に魅力がないし、ストーリーも支離滅裂になってきてるし、さすがの私でも1部より色々とクオリティが落ちている、とわかるのでむしろ作者を心配している。ここまでくると最早つまらないとかいうレベルではない。5ch のスレッドもあきらかに書き込みが減り、Twitter のトレンドにも入ってなさそうだし、そもそもジャンプ+のコメント欄でもつまらない、面白くない、作者は大丈夫か、という声が見られる。

私は各出版社の漫画アプリで新人の読み切りもよく読む。そこで近年目立つのが「藤本タツキフォロワー」の新人作家たちだ。つまらない作品もあれば、おもしろい作品もあり、やはり私には「藤本タツキ作品が合わない」のだと思う。
ちなみにおもしろかったのはこれ。
尾崎海老太郎「ラブ♡ラブ♡ドッカンアタック」

藤本タツキというか藤本タツキのファンに感謝していることがひとつあって、それはチェンソーマン 1部連載中に 5ch のチェンソーマンスレを読んでいたところ、「『夜長姫と耳男』みたいなラストにしてほしい」というレスがあり、私は坂口安吾好きであるのに不覚にもなぜか有名な「夜長姫と耳男」を読んだことがなかったのですぐさま青空文庫で読むと、これが「桜の森の満開の下」を個人的に超えるぐらいの大傑作で、死んでしまうかと思った。
ありがとう、あのときのチェンソーマンのファン。おかげで読み逃していた大傑作に出会えました。

坂口安吾「夜長姫と耳男」