2025/04/15

お店のひとと話して気に入られると得したりいいことあるし楽しい

私の母はホームセンターに灯油を買いに行くとなぜか多めに入れてもらったり、商業施設の駐車場のおじちゃんにお買い上げレシート見せる形式のところで、本当はちょっとあと数百円足りないけど、まあいいよとサービスしてもらったりすることが頻繁にあり、まあ母は中高年男性ウケのいい容姿やファッション、身なりをしていて(女子アナみたいな系統っていうか)、あと常連で顔を覚えられてるからだと思うんですが、私もお祭りの出店などでサービスしてもらったこと(量増やしたり、まけてもらったり)など、同様の体験ある。
常連になって会話弾むとなんかしらサービスあったり、とっておきの情報教えてくれたりすること、ある。

でも、そんなんは些細なもんで、もっと楽しいのは、「わかってる客」だと思われること。

10年ぐらい前、九州のある百貨店に行った。私は百貨店が大好きだが、百貨店の催事、これも好き。大九州展とかのグルメもいいけど、実店舗を持たないタイプ(持ってても1店舗だけとか)の零細メーカーが、全国各地の百貨店を巡業しててモノを売っていることがあり、私はそういうの見るのが大好き。あと作家系もある。

その日はバッグや小物を売っていた。男性と女性が立っている。平日なので暇そうだ。私は平日休みなのでこういうときちょうどいい。
ピーターラビットのリュック。これを私はひと目見て気に入った。私はピーターラビットの絵本を子供の頃に読んで以来、ファンである。

男性が話しかけてくる。
「ピーターラビット、お好きですか?」
「ええ、大好きです。これ、素晴らしいですね。ピーターラビットのお母さんが編み物をしていて、『うさぎたばこ』の原料のラベンダーが壁に吊るされてて、ピーターの妹たちが描かれている、ピーターのお母さんが営むお店のイラストじゃないですか。ピーターをメインにするのはありがちだけど、これをメインに持ってくるとは」(いきなり最大火力出す女)
男性の目の色が明らかに変わる。
「お詳しいですね!!そうなんですよ。ピーターメインはありきたりだと思ってあえてこうしたんです。見てください、ピーターは実はここにいるんです」
リュックのサイドにピーターラビットがいる。
「ほんとだ、あ! 反対側にはいとこのベンジャミンバニーがいますね! しかもピーターと寄り添っているシーン! いいなあ、私はベンジャミンバニーが大好きなんです(いちばん好きなのはベンジャミンバニーのお父上やが……恰幅のいいイギリス紳士最高!! 癖!!)」
もう、男性めっちゃ嬉しそう。「え、なんでキャラクターの名前分かるんですか!?(ヲタクだからだよ) 本当にお好きなんですね。ちなみにこれ、着物の帯の生地を使ってます」
「ああ、そうなんですね。銀糸が煌めいて美しいです。あっ! ここ(リュック上部、ファスナー部分)の“ロイヤルブルー”! 綺麗! 最高の差し色ですね! 」
「わ、わかりますか? この“ロイヤルブルー”」
「ええ、だってイギリスといえば“ロイヤルブルー”じゃないですか。そしてここに他のキャラクターも並んでいますね! 『こねこのトム』『ふくろうのブラウンじいさま』『キツネどん』もいる、すごい!」(完全にヲタク)(ロイヤルブルーのくだり、こち亀の「アオいいよね」「いい……」やん。でも私は喋りまくりなのでその域に全く達していない、取るに足らない雑魚、ヲタク初心者ですね)
男性、大興奮。
「わあ〜! 嬉しいなあ、お若いのに、そこまでわかってくださるとは。これ、他のとこでお客さんにダサい、センス悪い、意味わかんないって言われたんですけど(他の客辛辣すぎやろ)、このキャラクター、丸いモチーフを並べたのは曼荼羅をイメージしたんです。日本人は曼荼羅が好きなはずなんですよ。でもなかなか分かっていただけなくて……なんでかなあ?」
「(ピーターラビットに曼荼羅ねじ込んでくるとかこいつやるな……)曼荼羅かあ。かっこいいですよね。密教系の仏教美術っていいですよね。ファスナーの引き手の金具もいいですね、これ。アンティークゴールドで丸っこくて」
男性は、社長さん兼デザイナーさんであった。そりゃ自分の仕事褒められたら嬉しいわな。

他にも、海外の画家の作品の柄のバッグもあり、私はそれにも反応する。
「あ、これ◯◯(画家名)の××(作品名)じゃないですか。私この絵大好きで、この絵の柄のお財布とバッグ持ってます」
「ひょっとして、△△っていうメーカーの……?」
「そうです」
「やっぱそうかー! あそこも同じ柄のバッグ作ってますけど、この形はないんですよね。あと縦長の絵だから下の方が切れてて。それが惜しいなと思ってこれ作りました」
「わかります。でも、最近この形に似たの発売されましたよ? 絵の下の方も切れてないものが。サイズや素材は違いますが……」
「えっ!? そうなんですか!? あとでチェックしときます!」
もうなんなんこの会話。業者かよ私は。

で、リュックとトートバッグ買うことにしたんですけど、いやお値段しますけど、これだけのクオリティ、買うしかないと思ったんで。買わんかったら絶対後悔する。すげえもん、これ。
すると、男性が「これ、差し上げます」と言って、(おまけとしては)高めの商品をサービスでつけてくれるという。
「え!? いいんですか!?」
「ここまでわかってくださる方、なかなかおられないので……うちの商品、安心してお嫁に出せるんで。私の気持ちです」
じゃあ……とありがたく頂戴する。
男性社長、すんごい嬉しそうだった。私も嬉しいよ、素晴らしいこだわりの商品を手に入れることができて。
「お話できて楽しかったです。素敵なものに出会えて嬉しいです。ありがとうございます」
「こちらこそ、本当にありがとうございます」

こういうことがあるからやめらんねえんだよなあ〜ヲタク。
こういうのわりとあります。店員さんと盛り上がりがち。楽しいね。
あと、客が来なくて暇なのマジつらいからね。
悲しいことにそのメーカーはもうなくなりましたが……。リュックとトートバッグはまだ手元ににある。

そのリュックをからって(背負って)、下関の旧英国領事館に行った。下関の旧英国領事館の公認マスコットキャラクターは、ピーターラビットである。
館内のショップで、ピーターラビットグッズや英国雑貨、食品を見ていたところ、男性職員さんに話しかけられる。
「そのリュック、すごく素敵ですね」
「ああ、これ。いいでしょう。お気に入りです」(こういう時、謙遜しない)
「……あの、写真撮ってもいいですか? リュックの」
「いいですよ(なんやこの状況)」
私がリュックを背負ったままで、職員さんがリュックの写真を撮る。
せっかくなので、リュックを下ろして、細部のキャラクターも見てもらう。
「おお……いや、すごいですねえ。見せてくださってありがとうございます」
「いいえ、こちらこそ。ここに来るならこのリュックじゃないとって思って持ってきたんで」

もうひとつこのリュックの思い出ある。
結婚後、夫と梅を見に行った。
アウターがわりに総絞りの赤い羽織りをワンピースの上から着ていた。もともと祖母の持ち物で、実家にあったから昔からたまにアウターがわりにしていた。

(それで 10代の頃、呉服屋さんで買った赤い鼻緒の下駄も履いてたから、精神科に行く途中の電車の中で中高年女性に話しかけられたというか褒められたことがある。「あなたそれ、すごく素敵ね、お羽織りをワンピースに合わせるってすごくおしゃれだわ。私、考えたことなかった。あなたにとってもよく似合ってる。若いあなただから、できるおしゃれだわ。まあ、お羽織りはおばあさまの? 総絞りってすごくいいお羽織りだわ、これ、すごくいいものよ。とても大事になさってるのね、おばあさまも喜んでるはずだわ。下駄も素敵ね、赤、あなたに似合うわ」と。20年ぐらい前の話だが、ほんとうに素敵な女性だった。すごくいい思い出)
(ちなみに精神科の看護師さんからも褒められた。赤い鼻緒の下駄を特に褒めてた)
(10代の私、ロリィタも着てたし、田舎で傾奇者やっとる。ようやった。すごい)
(コロナ禍前まではサンダル代わりに下駄履いてたんですけど、身体能力の低下で、もうコケるの怖くて履けなくなっちゃった。ロッキンホースバレリーナは少女じゃないと履ききらんみたいな。草履ならいける)

羽織りに合わせる鞄どうしよう、と思い(着物のとき鞄困る問題)(いや全身和装じゃないですが)、ピーターラビットのリュックあるやん、帯の生地だし、背中にくるし、帯がわりでちょうどいい。これにしよ。
そうして夫と梅を見ていると、出ました! 媼(高齢女性)が。着物着てると吸引力あるから中高年寄ってくるよね。遠目でもわかるんだろうね。センサーあるんやろうね。
「まあ、あなたそれ総絞りじゃないの、ああ、羽織りに洋服合わせてるのね。いいわね楽で。ふーん」
しかも許可なく羽織りの生地触ってくる。やめろ、触るのは。この媼、“着物警察”やな!?
「しかもこの鞄! いいねえ。帯みたいで。あたし気に入った!」
ばし、ばし。リュック平手で叩いてくる。やめろ、叩くな。ファンキーな婆さんだな。
媼は満足したのか去っていった。いや、ひとのリュック叩くなよ。暴力はやめてください!!
洋服に合わせるとか尖ったコーデをしていると着物警察にも感心されたり、むしろ褒められるんだよなあ。この勝負、ワイの勝ちや。(人生は博打、勝負事)

店員さんとの思い出、もっと書く。
平日昼、横浜某百貨店。婦人小物売り場の催事(ファッション小物)が気になり、通りがかりに見ていると、「どうぞごゆっくりご覧ください。……あなた、そのお召し物(ワンピース)、素敵ね。ウィリアム・モリス? あれ? でもモリスにそういう柄あったかしら?」と店員さん。やはり目がいいよなあ、こういう商売してるひとは。
「ありがとうございます。モリスに似た雰囲気ありますよね。これはフランスの『ミュルーズ染織美術館』のコレクションをもとにしたものなんです」
「えっ、なあに、詳しく教えてもらってもいいかしら?」(興味津々)
「18〜19世紀のフランスの伝統柄とかテキスタイルや図柄を保存してる美術館があるんです。フランスのテキスタイル、いいですよね」
「えっ、すごく気になるわ。すごく私好みなの。どこのショップで購入されたものかしら。どこのブランドかお聞きしてもいい?」(みずからの欲望に忠実な女、好き)
「これは、通販ですね」
「通販!? 通販にこんなに凝ったものがあるの?(通販っていうとだいたいみんなこのリアクションする) ごめんなさい、私、どうしても知りたくて……教えてくださる? ほら、私いま、スマホ出せないから」(みずからの欲望に忠実な女、好き。2回目)(そうなのだ 接客中って私物スマホ触ったりできない場合が多い 特に百貨店だとめっちゃ厳しいよね)
「フェリシモの、『MEDE19F』というブランドです。これですね(自分の iPhone の画面を見せる)」
「まあ、こんなものがあるのね、あ、これとか私でも着られそう。えっ、お値段も意外とお手頃じゃない? 私もっとすると思ってた。びっくりだわ」
「そうなんです。お手頃価格で……。そのワンピース、いいですよね。きっと似合いになりますよ」
「わあ、いい話聞いたわあ。ありがとう、教えてくださって。フェリシモ、MEDE19F ね。覚えたわ。あとでメモするわ! 素敵ね……」
その後用事があったので、買い物はせずその場をあとにした。
いやあ、いいですね。気に入ったものを着ていて、店員さんに褒められるどころか、もう、ああ、『おわかりになられますか? この魅力がーー』みたいになると。
ただフェリシモは届くの遅いし、ちょっとだいぶ不便なシステムなのであんまり他人におすすめできねえんだなあ。

当然、モリスのワンピースも何枚か持ってる。ある 3月、私はミントグリーンの春らしいモリス柄のワンピース、それにころんとしたほぼ実物大の苺のネックレスを合わせた。チェーンはアンティークゴールド。以前、横浜の赤レンガ倉庫で(やっぱたまたま催事してて)買ったものだ。いまは赤レンガ倉庫に実店舗がある。「秘密の苺」というお店。
そして横浜の元町商店街のとあるお店にハーブティーを買いに行く。
「あら、モリスね。そして苺。苺泥棒柄じゃないけど、苺を合わせたのね。素敵!」
「(くぅ〜!!! 分かってもらえて嬉しい〜!!)そうなんです! 春らしくしたくて……」
ハァハァ、ファッション楽しい。わかるひとにだけわかるやつの。

あとコロナ禍、気分上げるために人生初ブリーチして、せっかくなら『最高』を体験したいと思い、めっちゃすんごい技術を持つ派手髪専門の美容師さんをネットで見つけて、予約して行った。まあこれがすんごい技術力、センス、クオリティ。まじリスペクト。やっぱ職人さんって最高。(しかも『黄昏時の空』イメージで、とか『好きなアニメ漫画キャラクター』イメージでオーダーできちゃう。あとは美容師さんにおまかせ)

そんで派手髪にしてた時期あるんですけど、それでやっぱり平日の横浜某百貨店 1階を歩いてた。
店員さんに、「まあ! 素敵なお色ですね! その髪……」と呼び止められる。思わず声をかけてしまったみたい。横浜の百貨店って確かに派手髪の客って少ないかも。見たことない。平日は若いひとあんまおらんし。新宿伊勢丹ならもっとおる気するけど。
「ああ、これ、すごいですよね(なんで他人事なんだ)。あ、せっかくなんで髪下ろしましょうか?」
夏場だったので暑くて髪を纏めていた。
「え、ぜひ……拝見したいです」
 私はまとめ髪をほどき、長い髪をブワッと下ろす。
「わあっ……!!(感嘆) すごく綺麗!!」
「サーティワンのアイスクリームみたいですよね」
「すごく素敵です!!」
なんか、店員さん喜んでた。よかったね(なんで他人事なんだよ)。
派手髪、いろんなひとに褒められたな。メンズファッションブランドのデザイナー兼社長さんの奥様にも「すごく綺麗ですね!」って言われた。そうでしょうそうでしょう(得意気)。

たださ、ブリーチ、めっちゃ髪痛む。一生懸命ケアしても、髪ちぎれるちぎれる。あと髪乾くの遅すぎてキレそう。ダイソンのヘアドライヤーを持ってしても私の毛量がね、やばくて。
なので今は地毛。でも楽しかったなあ、派手髪。

ファッションって自己満足の世界だと思ってるんですけど、いやあ楽しいねえ。店員さんに分かってもらえたり褒めてもらえるのも、通りがかりの見知らぬひとに褒められるのも嬉しい。楽しい。資本主義のいいところなんだよなあ。